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2008年12月15日月曜日

『BERNARD BUFFET ET ANNABELE』

今回のブックレビューは、ダンサーのタナカアリフミさんにオススメの1冊を紹介していただきました。

『BERNARD BUFFET ET ANNABELE』(フォイル)
¥2940(税込)

忙中、暇をみつけては本屋を覗く。
びっくりすることにすぐさま欲している本に出会うことが多い。べつに探している本という訳ではない。
あぁ、いまこんなことに興味が湧いてたんだよな〜と自己確認を迫られるようにそれは忽然と目のまえにあらわれる。

数ヶ月前、平積みされていたのは、『BERNARD BUFFET ET ANNABELE』。
運 命的な出会いをした画家ビュフェとモデルのアナベル。ふたりの男女の歴史が写真と簡潔な文章で綴られている佇まいのいい本である。出会った頃のサントロペ で寛ぐ初々しいふたりの印象的な一葉の写真、訥々と語りかけるビッフェの含羞と繊細な指先、彼のコトバに耳をかたむけるボーイッシュな短髪のアナベルの表 情がうつくしい。早逝した母親、父親との確執、似通った家庭環境に育ち、若くして手に入れた成功とは裏腹にさいなまれる孤独を共有するふたりは、南仏の陽 光に解きほぐされるようにたちどころに魂で結ばれる。その後、ながい年月を冷めやらぬ情熱でおたがいを支え続け<重要な他者>としてともに生きることにな る。そして、晩年のふたりに不幸な結末が待ち受ける。だがそれは、ビュフェの最後の尊厳を保つためには致し方のないことだったのかもしれない…。

悪女ガラを美神と称え続けて制作に没頭していったダリ、カミーユの才能に脅威を抱きながら共同制作したロダン、生けるギリシャ彫刻・ジャン・マレエに心奪わ れたコクトー、いまアーティストと美神との関係性について思慮している。ダリは、精神的支柱のガラを失うことで崩壊してゆく。カミーユは、ロダンとの別離 後、晩年を精神病院で暮らし静かに果てる。ジャン・マレエは、映画界からリタイアしたあともコクトーへの想いを胸に絵筆を執り続けたと聞く。
運命の出会いを遂げた者は、深い刻印でその後の生を決定づけられるようだ。よくもわるくも運命に抗うことは、深い後悔の念を残すにちがいない…。

タナカアリフミ
ダンス・カンパニー=SILENCEscape主宰