More Stories on Book Review »

2013年3月16日土曜日

『銀河ヒッチハイクガイド』



今回のブックレビューは、古書 BiblioMania店主の鈴村純平さんにおススメの一冊を紹介していただきました

『銀河ヒッチハイクガイド』ダグラス・アダムス著 河出文庫

42」という数字。ただなんの変哲のない数字です。
この数字から一体どんな解釈が可能でしょうか?
この物語では「人生、宇宙、そして万物その他諸々についての答え」の答えとして「42」という数字が登場します。
一癖も二癖もある登場人物たちはこの数字に翻弄されながらも、各々の好き勝手に宇宙を冒険していき、またこの数字に行き着きます。

イギリスのラジオドラマから始まったこのシリーズは、タイトルの通り宇宙における様々なトラブルに巻き込まれながらも、ドタバタな冒険を繰り広げる所謂SF メディに分類されます。よくレビューされる時はこの様なドタバタがメインとして取り上げられますが、今回は私の感じたもう一つの側面をご紹介させて頂こう と思います。
ドタバタですが脚本家であった著者ダグラス・アダムスのとんちの効いたブラックユーモアが際立つこの作品は、ただのSFコメディの範疇に入らないと私は考えます。或いは皮肉の効いた哲学ではないかと深読みすることができるのではないかと。

その一つが先ほどの「42」という数字です。
前述のとおり「人生、宇宙、そして万物その他諸々についての答え」ですが、宇宙で最も凄いコンピューター「ディープソート」によって750万年経て導き出された答えに、ある宇宙人(ハツカネズミ)も戸惑っていました。
宇宙で最も凄いコンピューターが何万年もかけて出した答えがたったの「42」。 コンピューターは最初の問いかけが曖昧すぎるためこの答えしか出せないと答えます。
質問が確かに詰め込みすぎなのはわかりますが、人生については私はやはり極端に曖昧なものなのではないかと思います。辞書的な意味はコンピューターでもわかるでしょうが、万人の人生などは当たり前ですがテンプレート等存在せず、もっぱら数字などでは表せないでしょう。「42」を聞いたハツカネズミの気持ちがわ かるようです。

この「42」については海外でも様々な考察などがされているわけですが、作者のダグラス・アダムスはとあるインタビューで、この「42」は「全く意味の無い平凡な数字」と語っています。もちろんフィクションですからそれでもいいわけです。ですが私はその「42」も含め全て答えではないのかと思うわけで。
「人生、宇宙、そして万物その他諸々についての答え」=「42」=「全く意味の無い平凡な数字」
つまり最初から意味がなかったと、作者は無神論者ですから生命やらなにやらが自然発生し知恵を持って人間になったというスタンスかと思われます。その為カミサマやらそれに準じるものが何かしらの意図を持って人間やらを生み出すわけがないと。
「人生、宇宙、そして万物その他諸々についての答え」。それらの問いに意味を求めるのは意味がないことではと考えさせられました。

42」を私達読者は様々な考察をすることができます。「意味のない数字」と知りながらも、しかしそれは「人生、宇宙、そして万物その他諸々についての答え」ですから、やっぱり「42」は答えなのではないでしょうか?
或いは客観的に意味がなくてもそこに意味を見出すことができるのかもしれません。
もしくは考えるだけ無駄という風にも取れるかもしれません。

もちろん今回はちょっと深読みをしただけですので、SFコメディとしてもおすすめできる本だと思います。
ちなみに訳は違いますが「人生、宇宙、すべての答え」をgoogleで調べてみるとしっかり「42」という事を答えてくれます、750万年掛かって出した答えを1秒足らずで計算してくれるらしいです。
この『銀河ヒッチハイクガイド』はシリーズになってまして続編に『宇宙の果てのレストラン』『宇宙クリケット大戦争』『さようなら、いままで魚をありがとう』『ほとんど無害』そして作家を変えて更に続編の『新 銀河ヒッチハイク・ガイド (上・下)』が河出文庫より出版されています。
とにかくドタバタコメディの色が強いので笑いたい方にはオススメです。

鈴村純平
古書 BiblioMania 店主 
3月16日、伏見地下街に新装開店をさせていただくことになりました。


2012年12月16日日曜日

『Adobe Premire Pro-After Effectsでクレイアニメ&人形アニメを作ろう!』

今回のブックレビューは、シアターカフェの林緑子さんにアニメーションに関するおススメの一冊を紹介していただきました

『Adobe Premire Pro-After Effectsでクレイアニメ&人形アニメを作ろう!』
オカダシゲル、川村徹雄、小林正和、船本恵太 共著、2010年、ソシム株式会社


今は映像を観たい人より作りたい人が増えている、先日そんな話を知人から聞いた。この本は、まさに作りたい人のため、手取り足取り細かなところまで、人形や粘土などによる、コマ撮アニメーションの制作方法を紹介している。

 どのような機材が必要で、どうやって脚本や絵コンテをかくのか、映像関連ソフトウェアの使い方など、そして、実際に撮影するための人形やセットの作り方、どうやって撮影していくのか、気をつけるべきことなど、本当に丁寧に豊富な図版付で紹介している。415ページ、3㎝弱の厚さ。ちょっとした辞書並みだ。

 読み進むと、金属加工するためのボール盤やその他、いろいろな機材が必要だったり、石膏でかたどりをして、シリコン樹脂で型をつくるなど、道具や技術的な面で素人にはちょっと敷居が高いかもしれない。撮影編集に使用されるソフトウェアにしても、正規版はどれもかなり高価だ。

 それはさて置き、プロとして仕事を実際にしている人たちが、どのような手順で作っているのかがわかる手引き本としても興味深い一冊だ。

 この本を観ていくと1本の短いコマ撮アニメーション作品をきちんと制作するためには、どれだけの時間や手間がかかっているのかが、とてもよく伝わってくる。そうした、細かく丁寧で地道な作業工程を経て1本の映像作品が完成する。

 パソコンの普及、廉価なソフトウェアの選択肢が広くなったこと、インターネット上でのさまざまなサイトによる情報提供などから、映像制作が手軽に誰でもできる可能性が広がった現在、趣味的な要素があれば、場合によってはフリーソフトで簡易な作ったものの方が受けたり、必ずしも、精巧さや完成度の高さが求められないことが増えた。

 短時間で簡易に作られたものと、丁寧に時間をかけて作られたものでは何が違うだろうか。それぞれに光る部分や興味を引く要素があれば誰かにとっての良作となる。どちらが良いかは、その人それぞれの好みや考え方で決まってくる。

 ともかくも、地道な職人的作業を経て作られる映像を知る手がかりとしても、本書は、おもしろく楽しめる一冊だろう。


林緑子
中区大須のシアターカフェ運営スタッフ

■クリスマス・アニメーション 大桃洋祐監督特集
丁寧にひとつひとつ手作りで制作されたアニメーション作品集をクリスマス企画として上映

日時/2012年12月22日(土)~24日(月祝) 15:00/19:00
会場/シアターカフェ(名古屋市中区大須2-32-34)
料金/1500円(1ドリンク付)
http://www.theatercafe.jp/schedule/screening/icalrepeat.detail/2012/12/22/426/-/

2012年9月17日月曜日

『余白の時間 辻征夫さんの思い出』

今回のブックレビューは、シマウマ書房の鈴木創さんにおススメの一冊を紹介していただきました


『余白の時間 辻征夫さんの思い出』 八木幹夫著、2012年、シマウマ書房

思いがけず、こうしたスペースをいただきましたので、ちょうどこの時期に自分が企画・編集し、刊行させていただくことになった、詩人の八木幹夫さんによる『余白の時間 辻征夫さんの思い出』という本をご紹介させていただきます。

僕はブックマークナゴヤという名古屋でのブックイベントの実行委員をしているのですが、2010年の同イベントで発行したブックガイドのなかで、《たいせつな本:出会えてよかったと思う大切な一冊》というテーマを受けて、辻征夫さんの『ぼくたちの(俎板のような)拳銃』という小説集をとりあげて、次のような コメントを書きました。
 
「こう言うと恥ずかしいけれど、辻征夫は僕にとって青春の詩人。大学を出て職を転々としていた20代、鞄にはいつもこの人の現代詩文庫を忍ばせていた。それこそ隠し持った拳銃のように。亡くなる数年前に書かれた幾つかの小説も、いつも泣きそうな気分になりながら文芸誌で読んでいた。とくにこの本に収録の短篇『黒い塀』は、どこにも辿り着けず、棒切れのようにただ転がっているしかなかった当時の自分にとって、何よりも大きな励ましだった。自暴自棄とも違う、けれどもこれしかないのだという、人生における捨て身の覚悟を教わった作品。」

この一文を書いたことがまわりまわって、その年の夏、辻征夫さんの長年の詩人仲間であった八木幹夫さんに、弊店にて、辻さんについてのトークをしていただくことになりました。今回の本は、このときの講演録を再編集し、八木さんに加筆修正をお願いして、辻さんのご遺族にもご協力をいただき書籍化したものです。

辻征夫の詩のなかにある、読者の心をふっとつかみとってしまうような魅力、ユーモア、優しさは、表現者としての孤独な闘いをくぐってきたからこそのものだ と、八木さんは指摘しています。どんな仕事、立場であれ、孤独な闘いを胸の内に抱えながら生きている人に、ぜひ手にして読んでいただきたい一冊です。

なお、今年で五回目の開催となるブックマークナゴヤ。会期は10月5日(金)~10月28(日)となります。「本と本屋の魅力を再発見しよう」をキーワードに、名古屋市内の書店、古書店、雑貨店、カフェなどで、本にまつわる様々な企画が行われます。

弊店では、この『余白の時間』の装幀をしていただいた戸次祥子さんによる展示「本のための敷石」を行います。戸次さんは、落葉のコラージュ絵、木口版画、リノリウム版画などで小さな断片世界を紡ぐ、愛知県在住の作家さんです。

今回の展示に併せてオリジナルの書皮や栞、小冊子なども販売します。


鈴木 創
シマウマ書房店主。ブックマークナゴヤ実行委員。
http://www.shimauma-books.com/
http://www.bookmark-ngy.com/