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2012年12月16日日曜日

『Adobe Premire Pro-After Effectsでクレイアニメ&人形アニメを作ろう!』

今回のブックレビューは、シアターカフェの林緑子さんにアニメーションに関するおススメの一冊を紹介していただきました

『Adobe Premire Pro-After Effectsでクレイアニメ&人形アニメを作ろう!』
オカダシゲル、川村徹雄、小林正和、船本恵太 共著、2010年、ソシム株式会社


今は映像を観たい人より作りたい人が増えている、先日そんな話を知人から聞いた。この本は、まさに作りたい人のため、手取り足取り細かなところまで、人形や粘土などによる、コマ撮アニメーションの制作方法を紹介している。

 どのような機材が必要で、どうやって脚本や絵コンテをかくのか、映像関連ソフトウェアの使い方など、そして、実際に撮影するための人形やセットの作り方、どうやって撮影していくのか、気をつけるべきことなど、本当に丁寧に豊富な図版付で紹介している。415ページ、3㎝弱の厚さ。ちょっとした辞書並みだ。

 読み進むと、金属加工するためのボール盤やその他、いろいろな機材が必要だったり、石膏でかたどりをして、シリコン樹脂で型をつくるなど、道具や技術的な面で素人にはちょっと敷居が高いかもしれない。撮影編集に使用されるソフトウェアにしても、正規版はどれもかなり高価だ。

 それはさて置き、プロとして仕事を実際にしている人たちが、どのような手順で作っているのかがわかる手引き本としても興味深い一冊だ。

 この本を観ていくと1本の短いコマ撮アニメーション作品をきちんと制作するためには、どれだけの時間や手間がかかっているのかが、とてもよく伝わってくる。そうした、細かく丁寧で地道な作業工程を経て1本の映像作品が完成する。

 パソコンの普及、廉価なソフトウェアの選択肢が広くなったこと、インターネット上でのさまざまなサイトによる情報提供などから、映像制作が手軽に誰でもできる可能性が広がった現在、趣味的な要素があれば、場合によってはフリーソフトで簡易な作ったものの方が受けたり、必ずしも、精巧さや完成度の高さが求められないことが増えた。

 短時間で簡易に作られたものと、丁寧に時間をかけて作られたものでは何が違うだろうか。それぞれに光る部分や興味を引く要素があれば誰かにとっての良作となる。どちらが良いかは、その人それぞれの好みや考え方で決まってくる。

 ともかくも、地道な職人的作業を経て作られる映像を知る手がかりとしても、本書は、おもしろく楽しめる一冊だろう。


林緑子
中区大須のシアターカフェ運営スタッフ

■クリスマス・アニメーション 大桃洋祐監督特集
丁寧にひとつひとつ手作りで制作されたアニメーション作品集をクリスマス企画として上映

日時/2012年12月22日(土)~24日(月祝) 15:00/19:00
会場/シアターカフェ(名古屋市中区大須2-32-34)
料金/1500円(1ドリンク付)
http://www.theatercafe.jp/schedule/screening/icalrepeat.detail/2012/12/22/426/-/

2012年9月17日月曜日

『余白の時間 辻征夫さんの思い出』

今回のブックレビューは、シマウマ書房の鈴木創さんにおススメの一冊を紹介していただきました


『余白の時間 辻征夫さんの思い出』 八木幹夫著、2012年、シマウマ書房

思いがけず、こうしたスペースをいただきましたので、ちょうどこの時期に自分が企画・編集し、刊行させていただくことになった、詩人の八木幹夫さんによる『余白の時間 辻征夫さんの思い出』という本をご紹介させていただきます。

僕はブックマークナゴヤという名古屋でのブックイベントの実行委員をしているのですが、2010年の同イベントで発行したブックガイドのなかで、《たいせつな本:出会えてよかったと思う大切な一冊》というテーマを受けて、辻征夫さんの『ぼくたちの(俎板のような)拳銃』という小説集をとりあげて、次のような コメントを書きました。
 
「こう言うと恥ずかしいけれど、辻征夫は僕にとって青春の詩人。大学を出て職を転々としていた20代、鞄にはいつもこの人の現代詩文庫を忍ばせていた。それこそ隠し持った拳銃のように。亡くなる数年前に書かれた幾つかの小説も、いつも泣きそうな気分になりながら文芸誌で読んでいた。とくにこの本に収録の短篇『黒い塀』は、どこにも辿り着けず、棒切れのようにただ転がっているしかなかった当時の自分にとって、何よりも大きな励ましだった。自暴自棄とも違う、けれどもこれしかないのだという、人生における捨て身の覚悟を教わった作品。」

この一文を書いたことがまわりまわって、その年の夏、辻征夫さんの長年の詩人仲間であった八木幹夫さんに、弊店にて、辻さんについてのトークをしていただくことになりました。今回の本は、このときの講演録を再編集し、八木さんに加筆修正をお願いして、辻さんのご遺族にもご協力をいただき書籍化したものです。

辻征夫の詩のなかにある、読者の心をふっとつかみとってしまうような魅力、ユーモア、優しさは、表現者としての孤独な闘いをくぐってきたからこそのものだ と、八木さんは指摘しています。どんな仕事、立場であれ、孤独な闘いを胸の内に抱えながら生きている人に、ぜひ手にして読んでいただきたい一冊です。

なお、今年で五回目の開催となるブックマークナゴヤ。会期は10月5日(金)~10月28(日)となります。「本と本屋の魅力を再発見しよう」をキーワードに、名古屋市内の書店、古書店、雑貨店、カフェなどで、本にまつわる様々な企画が行われます。

弊店では、この『余白の時間』の装幀をしていただいた戸次祥子さんによる展示「本のための敷石」を行います。戸次さんは、落葉のコラージュ絵、木口版画、リノリウム版画などで小さな断片世界を紡ぐ、愛知県在住の作家さんです。

今回の展示に併せてオリジナルの書皮や栞、小冊子なども販売します。


鈴木 創
シマウマ書房店主。ブックマークナゴヤ実行委員。
http://www.shimauma-books.com/
http://www.bookmark-ngy.com/


2012年6月14日木曜日

『超芸術トマソン』 『新解さんの謎』

今回のブックレビューは、覚王山アパート「古本カフェ ソボクロ」のすずきめぐみさんに、「まち歩きが楽しくなる」一冊を紹介していただきました。
 
『超芸術トマソン』  赤瀬川原平著、1987年、ちくま文庫
『新解さんの謎』 赤瀬川原平著、1996年、文藝春秋
 
 
「考現学」という学問のカテゴリーがあることを学生時代に知りました。

アナログの カメラが好きだったことと、学生で暇だったということもあって
商店街や裏路地をぶらぶら歩いては「これは!」と思うものを写真に撮って遊んでいました。
それは本当にくだらないもの。古い看板や、独自の手書きの張り紙、時代に置き去りにされた商品や建物などなど。
撮った写真を自分なりのジャンルで分類してファイリングなどしていく。収集癖の一種でしょうか。ワクワクしました。

あるとき街で偶然、赤瀬川原平の展覧会をやっている会場にふらっと入りました。(赤瀬川原平の展覧会だったのかも
よく覚えていませんが・・・。たぶん名古屋の繁華街、伏見にあったINAXギャラリーだったような。)
そこで初めて「考現学」というものがあるのを認識したと思います。びっくりしました。路上で観察したことを事細かに記録し、整然と並べて発表している。「ただそ れだけのこと?」私はそんな「くだらないこと」を堂々と発表していいんだと衝撃を受けました。そして、自分の興味がある事がここにある事を確信し、晴れ晴れとした気持ちで会場を出た覚えがあります。

数年前から名古屋市千種区にある覚王山商店街の街づくりに携わっています。当初「覚王山の街を楽しく絵で紹介する、捨てられない絵地図を作ろう!」という計画で「覚王山マップ」を作ることになりました。もちろん私が下案の街の情報集め役! さっそく毎日覚王山の街を歩いて観察しました。普通では日常にとけ込みすぎて気付かないような些細な発見をどんどん地図に落とし込んで行く。どんな道にも何か発見があります。それをイラストレーターの伊藤ちづるさんにイラストにしてもらいました。完成したB2カラーのマップは今でも改訂&再版を繰り返しながら覚王山で無料で配布されています。マップを手に街を歩く若者が増え、覚王山の商店街が知られていきました。
世の中的にはどうでもいいモ ノをおもしろがる赤瀬川原平の『超芸術トマソン』。読売ジャイアンツに高額の契約金で雇われたゲーリー・トマソン選手が役に立たなかったことにちなんでつ けた「トマソン」のネーミングセンスも最高に面白いです。そして、新明解の国語辞典の語釈や用例の面白さを取り上げた『新解さんの謎』。どれもこれも、 「どうでもいい」「くだらない」が前提の発見がすばらしい。
この先も、街での活動やあらゆる自分の表現を、この「どうでもいいこと」を面白がる視点で盛り上げたいと思います。
 
 
すずきめぐみ
1972年6月生まれ。名古屋芸術大学美術学部卒業後、名古屋の情報誌「cheek」編集部に2年半ほど勤める。以降、何が本業なのかわからない。現在に至る。
覚王山アパート「古本カフェ ソボクロ」http://sobokuro.com
アトリエ&ギャラリー「日進木箱商会kibaco」nisshi-kibaco.com

秋に「覚王山参道ミュージアム」vol.13開催。庶民的まちなかアートイベントです。只今出展者募集中。
http://www.kakuozan.com
 

2012年3月16日金曜日

『中川 運河 写真』

今号のブックレビューでは、38日に発行された写真集『中川 運河 写真』を紹介します。本来ブックレビューは第三者が書くものですが、今回は写真撮影に携わった作家の一人である先間康博さんに、中川運河とどう向き合っていったかを交えながら紹介していただきます。

『中川 運河 写真』
2012年 eight 3150円(税込)

 中川運河と聞いた時、なにかそこに水脈があることは薄々気付いてはいても、それ以上なにも想像しえない程度のものでしかなかった。その上、見聞きする噂は、船の往来もほとんどなく、桜などこれといったものも少なく、臭いまでする。しかも、川辺にはほとんど近付けない。これで果たして、写すことができるのか。不安に思い、何度か行ってみたものの、そこにはただ動かない運河があるだけ。それ以上は何も見えてこず、半ば見切り発車的に始めることになってしまった。
 しかし、通っているうち、撮影という行為の為せる業か、次第にいろいろ見えてくるものである。光の変化はもちろんのこと、運河を通り抜ける風、数は少なくとも咲き誇る桜、実際には船の往来もある。水面の近くへも、丹念に探すと、そこかしこで近付くことができる。運河がもっと生き生きとした存在に見えてくる。最終的には、いま船がどこにいて、どこを風が吹いているのか、運河に出向かなくとも、頭の中で思えるようになる。視るということは、今までの思いから離れ、意識されえなかったものを発見し、新たな世界を形作っていくこと。そのようなことも、至極当然のことではある。とはいえ、全てを我が手中に入れられるはずもない。海鵜の大群が水面ぎりぎりを通り過ぎていく様など、ただ呆然と眺めているだけだった。
 他の方も、時間をかけて中川運河の撮影を行なったようである。櫃田珠実は水際の柔らかい光を捕らえ、尾野訓大はより白い夜の壁面の光沢を撫で、村上誠は昼と夜のあわいに育まれる凪の中に分け入っていた。いま、私を含め、それぞれの写真を見返すと、その踏み込み方は、ただ外から中川運河を撮るというよりも、なにか中川運河になるといったような、かなり踏み込んだものだったのではないだろうか。それゆえ、いわゆる中川運河の紹介として見たいと思う人にとっては、客観的で説明的ではないこのような写真に対して、期待外れの思いを持ってしまうのかもしれない。けれど、もし中川運河という一つの生き物がいるのだとしたら、彼はこのようなものを見ているのではないだろうか。そう思わせるような写真が、一つ一つ並んでいる。
 とはいえ、各々かなり異なる作品群である。一つにまとめることは、かなり困難を極めたようだ。いっそのこと、作家ごとに作品をまとめてしまえば、わかりやすかったかもしれない。けれど、それでは中川運河という一つの流れを分断してしまい、個々の見た運河像を、ただばらばらに見せるだけである。それを、インタヴューや論文も含め、このような形態をとることによってはじめて、中川運河の本来の姿が、表紙の淡い水の色に包まれながら見えてきているのかもしれない。
 もっとも、それがどのようなものか。作者の一人である私には、客観的には見ることができない。それでもなお互いの結びつきが弱く、静かに紡ぎすぎなのかもしれない。様々なつながりを求めて、一つの樹木としての本ではなく、一種の多様体(『千のプラトー』ジル・ドゥルーズ+フェリックス・ガタリ)として、広く世界に向かって作用していくような本にまで成りきれていないのかもしれない。ただ、都市工学者でもない私にとって、そのような作用が、現実の風景にまで表れることは、必要としていない。私にとって風景とは、作り出すものではない。すでにあるものを受け入れるものでしかないのである。それらを、全く新しい多彩な姿として再び還すこと。そのことで、世界にどう作用できたのか。そのことこそが、私の問題なのである。

■展覧会 中川 運河 写真
会期/201236(火)~18日(日) 10:0018:00 入場無料
土・日曜日~17:00
会場/名古屋都市センター11階 まちづくり広場企画展示コーナー
名古屋市中区金山町一丁目11号 金山南ビル内