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2012年9月17日月曜日

『余白の時間 辻征夫さんの思い出』

今回のブックレビューは、シマウマ書房の鈴木創さんにおススメの一冊を紹介していただきました


『余白の時間 辻征夫さんの思い出』 八木幹夫著、2012年、シマウマ書房

思いがけず、こうしたスペースをいただきましたので、ちょうどこの時期に自分が企画・編集し、刊行させていただくことになった、詩人の八木幹夫さんによる『余白の時間 辻征夫さんの思い出』という本をご紹介させていただきます。

僕はブックマークナゴヤという名古屋でのブックイベントの実行委員をしているのですが、2010年の同イベントで発行したブックガイドのなかで、《たいせつな本:出会えてよかったと思う大切な一冊》というテーマを受けて、辻征夫さんの『ぼくたちの(俎板のような)拳銃』という小説集をとりあげて、次のような コメントを書きました。
 
「こう言うと恥ずかしいけれど、辻征夫は僕にとって青春の詩人。大学を出て職を転々としていた20代、鞄にはいつもこの人の現代詩文庫を忍ばせていた。それこそ隠し持った拳銃のように。亡くなる数年前に書かれた幾つかの小説も、いつも泣きそうな気分になりながら文芸誌で読んでいた。とくにこの本に収録の短篇『黒い塀』は、どこにも辿り着けず、棒切れのようにただ転がっているしかなかった当時の自分にとって、何よりも大きな励ましだった。自暴自棄とも違う、けれどもこれしかないのだという、人生における捨て身の覚悟を教わった作品。」

この一文を書いたことがまわりまわって、その年の夏、辻征夫さんの長年の詩人仲間であった八木幹夫さんに、弊店にて、辻さんについてのトークをしていただくことになりました。今回の本は、このときの講演録を再編集し、八木さんに加筆修正をお願いして、辻さんのご遺族にもご協力をいただき書籍化したものです。

辻征夫の詩のなかにある、読者の心をふっとつかみとってしまうような魅力、ユーモア、優しさは、表現者としての孤独な闘いをくぐってきたからこそのものだ と、八木さんは指摘しています。どんな仕事、立場であれ、孤独な闘いを胸の内に抱えながら生きている人に、ぜひ手にして読んでいただきたい一冊です。

なお、今年で五回目の開催となるブックマークナゴヤ。会期は10月5日(金)~10月28(日)となります。「本と本屋の魅力を再発見しよう」をキーワードに、名古屋市内の書店、古書店、雑貨店、カフェなどで、本にまつわる様々な企画が行われます。

弊店では、この『余白の時間』の装幀をしていただいた戸次祥子さんによる展示「本のための敷石」を行います。戸次さんは、落葉のコラージュ絵、木口版画、リノリウム版画などで小さな断片世界を紡ぐ、愛知県在住の作家さんです。

今回の展示に併せてオリジナルの書皮や栞、小冊子なども販売します。


鈴木 創
シマウマ書房店主。ブックマークナゴヤ実行委員。
http://www.shimauma-books.com/
http://www.bookmark-ngy.com/