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2010年3月15日月曜日
『ポラーノの広場』ほか
今回のブックレビューは、ブックマークナゴヤ実行委員会委員長でYEBISU ART LABO FOR BOOKSの岩上杏子さんにオススメの本を紹介していただきました。
(左) 『"IHATOV"FARMERS' SONG/秋山花』
(中) 『ポラーノの広場』 宮沢賢治・著 秋山花・絵
(右) 『あじさいとこころ/岩崎美里』
2009年7月、東京で「ZINE’S MATE」というブックフェアが行なわれ、私達は出版社「ELVIS PRESS」として参加しました。
これは、現在世界中で盛り上がりを見せている、「ZINE」「リトルプレス」とよばれる自費出版の小冊子に代表されるような、既存の出版流通形態にはあたらない形で発刊している出版社を集めたもので、訪れた人の多さからこの分野への人々の熱い期待が感じられるイベントでした。
その中で出会ったのが、今回ご紹介する「PLANCTON」という出版社です。
普段は、それこそ何万部も印刷されている雑誌や、駅の構内をジャックするような大きい広告を作っているSOUP DESIGNというデザイン事務所が、もっとプライベートなものづくりをしたい、と始めたプロダクトレーベル「PLANCTON」の、最初に手がけたものが宮沢賢治と夏目漱石の小説をもとにした、『文庫』と『作品集』であった、というのはとても象徴的なことのように思えました。
「おはなし」というのは、読み手がおかれているごく個人的・一時的な状況や感情によっていかようにも読めてしまうので、時代の必要性をもって書かれた小説が、何十年もの時を経て鮮やかによみがえるということはなんども繰り返されてきたし、「おはなし」のパワーを改めて強く感じさせてくれるエピソードだと思います。そうした、既存のものに新しい価値を見いだしたり、古きものに新鮮な風を送り込んだりするというのは、とても勇気を要することのはずです。
ただ、ここで行なわれていることは、もっとごくごく私的な部分でのなんというか、色とか光に近いもの、柔らかくて気持ちよいとか、ざらざらとして舌に残る、とかいった…そういうものを受け止めて、頭の中で踊るその「感じ」が作品になっていて、カバーデザインやテキスト、絵の配置がとてもシンプルで美しく、宮沢賢治のおはなしがいつもそうであるように、イーハトーヴォから風に乗ってとどいた手紙のように感じられます。
「ポラーノの広場」というおはなしを知っている人もそうでない人にも、心に灯りをともしてくれる1冊です。
ブックマークナゴヤ(特集参照)参加店企画として、YEBISU ART LABO FOR BOOKS では、この「ポラーノの広場」に絵を描いた秋山花さんと夏目漱石の「こころ」に写真を撮った岩崎美里さんの展示を行ないます。(3月18日~30日)