今回のブックレビューは、名古屋市美術館ガイドボランティアの喜田泉さんに、おススメの一冊を紹介していただきました。
『奇想遺産』新潮社
Ⅰ鈴木博之/藤森照信/隈研吾/松葉一清/山盛英司
Ⅱ鈴木博之/藤森照信/隈研吾/松葉一清/山盛英司/竹内敬二/木村伊量
『奇想遺産』とはふしぎなタイトルだ。この本には一巻に「世界のふしぎな建築」二巻に「世界のとんでも建築物語」というサブタイトルがつけられている。
アート好きの私としては、まずこのタイトルに心を奪われてしまった。
表紙には「ル・ピュイ=アン=ブレ」という、それこそ奇妙な建築物。フランスオーベルニュ地方オート=ロワールにある教会だが、なんと高さ85mの巨石の上にちょこんとのっている。「いったい誰がどのようないきさつで、こんな奇妙な所に教会を建てたのだろう」と、私の好奇心は膨れ上がってしまった。
旅に出たり、知らない街を歩いている時に、不思議な景色や建物などに巡り合うことがある。意外なところに思わぬ発見があることも多いのだが、この本はそんな奇妙な建物・記念碑・造形を、世界レベルで集約したものだ。
作品は「奇景・奇観」「奇塔・奇門」「奇態」「奇智」「数奇」「神奇」「新奇・叛奇」の7部門に分類されている。
その中「奇塔・奇門」に岡本太郎の「太陽の塔」がある。
1970年、大阪万博のシンボルとして会場の中心に建てられた高さ66mのこの搭は、その奇抜な造形と圧倒的な存在感で、日本中の人々に衝撃を与えた。日本の社会が大きく変化する時代の象徴としてそびえ立つ「奇塔」。当時まだ子供だった私は、初めて現代アートの放つエネルギーにふれて、受け止めきれなかったことを思い出す。
筆者は「旅とは、訪ねた土地の『奇矯な事物』を見物に出かけることに他ならない」「名所旧跡を超えた自分だけの『とっておき』を発見したとき、通り一遍の観光から抜け出た快感を覚えるのである」「奇想遺産を訪ね歩く旅は先人たちの『夢のあと』をひと目でも見たいと願う素朴な心情」だと述べる。
芸術は「古いから」「奇抜だから」「巨匠の作だから」ということではなく、そこに込められた作者の情熱が篤いほど受ける感動は大きい。その感動に会いたくて旅に出ると言っても過言ではないだろう。
喜田泉 名古屋市美術館でガイドボランティアをしています