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2010年6月15日火曜日

『この人ゴミを押しわけて、はやく来やがれ、王子さま。』


今回のブックレビューは、フリーペーパー「屋上とそら free」ライターの安藤由貴さんに屋上で読むオススメ本を紹介していただきました。


『この人ゴミを押しわけて、はやく来やがれ、王子さま。』
著者/イチハラヒロコ 出版/アリアドネ企画

イチハラヒロコさんの本を見つけたのは、友人の誕生日プレゼントを探しているときだった。プレゼントは相手が喜びそうなものを選ぼうと、いつも思うのだが、結局は自分が気に入ったものを買っていたりする。この本もいつもと同じパターンで、そのユニークなタイトルをみて、贈ることを決めた。

  内容は、タイトル「この人ゴミを押しわけて、はやく来やがれ、王子さま。」に代表される、言葉の作品集。イチハラさんの作品は、シンプルで面白い。アートって難しそう…と、なんとなく苦手意識がある私でも素直に受け入れられる分かりやすさがある。それは、彼女自身がランゲージアーティスト、言葉の表現者だからなのかもしれない。作品を見た瞬間、そのストレートな一言に「ドキッ」とさせられたり、「くすっ」と微笑んでしまったり、「わかるわかる」と相づちを打ってしまったり。白紙に黒文字。ただそれだけなのに、見ていて飽きない。

  イチハラさんが海外で発表した作品で有名なのが、「万引きするで。」と書かれた紙袋だ。それをイギリスのショッピングセンターで配布した。関西弁が大きく印字された袋をもって、地元客が買い物を楽しんでいる写真が作品集には掲載されている。他にも「あついがな。」と書かれたスープ皿、「遅れるで。」と書かれた時計など。個展での代表作もこの一冊で見ることができる。意外な言葉とシチュエーションから生まれるメッセージに、いつもハッとさせられてしまう。その気づきが、言葉にアートを感じる瞬間なのかもしれない。

  たとえば、空に一つ言葉を描くとする。そのとき、自分はどんな言葉を思い浮かべるだろうか。今日はそんなことを意識して、外へ出てみようと思う。そこには、新しい発見に溢れたアートな世界が広がっているかもしれない。


安藤由貴/「屋上とそら free」ライター
※屋上をテーマにしたフリーペーパー「屋上とそら free vol.2」を好評配布中です。配布場所等の詳細は、屋上とそらと屋上空Webサイトwww.okujo.inまで。